ビルミヤマガジン

2025/07/16

日向市発! 防災教育プロジェクトで未来を拓く

Minecraftという身近なゲームを活用し、子どもたちのインフラへの理解や防災意識の向上を目指す画期的なプロジェクトが、今年(令和7年)1月、国土交通省の「インフラメンテナンス大賞」で優秀賞を受賞しました。

地域を想う大人のビジョンとアイディアに、子どものひたむきな探究心が結びついて生まれたこのプロジェクト。
受賞した『株式会社内山建設(日向市)』の内山社長と日向市在住・建設コンサルタントの甲斐さんにお話を伺いました。

小学生がゲームの世界で“わが街”を再現!?

社会資本の維持管理に関する優れた取り組みや技術開発を表彰する「第8回インフラメンテナンス大賞」で優秀賞を受賞したのは、「MineCraft×防災 – 遊びから学ぶインフラ未来創造プロジェクト」です。ブロックを積んで建物や街を自由に創り出せる人気ゲーム「Minecraft(以下、マイクラ)」を活用し、自分たちが住む街をバーチャル空間で再現することで、子どもたちが楽しみながら地域インフラへの理解を深めることができるこのプロジェクト。取り組みに大きく貢献したのは、当時まだ小学6年生だった甲斐玲乃心さんです。

〔↑同賞の表彰式にも参加した玲乃心さん。〕

きっかけは玲乃心さんの父・甲斐勝太郎さんのあるアイディア。
「彼はもともとマイクラが趣味で、いつも細かい建造物などをコツコツと器用につくっているのを見て感心していました。ある日、その様子を眺めていてふと、『日向市の街を再現してみたら面白いんじゃない?』と提案してみたんです。小学5年生の夏休みのことでした」
その何気ない提案で玲乃心さんの探究心に火が付き、約1年にわたる挑戦の日々が始まりました。

〔↑日向市の地形を再現〕

勝太郎さんはまず、マイクラ専用地形制作ツールを活用して、国土地理院が提供する地形データを基盤に土台を作成してはどうかとアドバイス。英語のみ対応のツールに四苦八苦しながらも、親子の共同作業で日向市の地形を再現しました。
土台が仕上がると、今度は玲乃心さんがほぼ単独で日向市の情報を集め、一つ一つの建造物を制作してゆきました。

〔↑大型店舗、病院、学校、工場、道路、線路、橋などのインフラ設備から住宅に至るまで、Googleマップで情報を集め、時には実地調査に出掛けることで緻密で正確な再現を成功させ、翌年4月に完成。〕

探究心×アイディア×ビジョン

並々ならぬ根気と探究心でチャレンジを成功させた玲乃心さん。さまざまな助言で成功への道筋を描いた父・勝太郎さんもまた、今回の立役者の一人です。
前日譚として、一昨年の春、「第8回インフラメンテナンス大賞」募集案内を受け取った勝太郎さん。『南海トラフ地震』などの大規模地震に備え、子どもと一緒に「防災」について考える地域密着型のプロジェクトの構想を練っていました。
その際、勝太郎さんが真っ先に相談を持ちかけたのが、『株式会社内山建設(日向市)』内山社長。同社は勝太郎さんの元職場で、内山社長とは今でも「新しい取り組みで日向市をより良い街にしたい」という想いを分かち合う同志です。勝太郎さんは、内山社長の豊富な知見やコネクション、そして何より不可能を可能にする実行力を頼りにしていました。

〔↑内山社長(左)と甲斐勝太郎さん(右)。内山建設は、土木・建築を手がける建設事業はもちろんのこと、関連会社の『ひむか農園』を通して日向市の特産品であるへべすの栽培・販売を成功させるなど、幅広い事業で地域社会への貢献を果たしています。〕

プロジェクトのキーポイントとなるのは、「街の3D化」です。
「現在、国土交通省がまちづくりや防災などに役立てるために日本全国で3D都市モデルの整備を進めています。日向の街も同様に3Dモデル化することができればというのが今回の着想の原点でした。しかし自治体の容認が必要な手法をとるとなるとかなりの時間を要してしまいます。『南海トラフ地震』に備え、子どもたちにはなるべく早く防災意識や知識を身につけてほしいという強い想いがあったため、その点が課題でした」

そんな中、予想外に玲乃心さん単独でバーチャルの日向市を完成させたことが、お二人の背中を大きく押すことになりました。玲乃心さんはさらにその後、ゲーム内で南海トラフ地震による津波を発生させる「津波シミュレーション機能」のプログラミングに独学で着手。再現した街並みやその津波シミュレーションプログラムをもとに、子どもたちと取り組む防災プロジェクト「MineCraft×防災 – 遊びから学ぶインフラ未来創造プロジェクト」をまとめ上げ、同賞に応募。その結果、見事優秀賞受賞を果たしました。

「これはあくまで序章に過ぎない」

このプロジェクトは、津波シミュレーションによる視覚的な被害理解や、災害時の避難経路の確認などを通した防災意識の向上はもちろん、地域への理解や愛着が深まることによるまちづくりへの参画意識の養成、さらには子どもたちのデジタルスキルの向上や創造的な問題解決能力の育成への貢献まで、幅広い効果を見込まれています。
「他の子どもたちも容易に再現できるようなマニュアルの作成や、津波シミュレーションプログラムの開発などは現在も進行中です。
今後はさらに多くの子どもたちに参画してもらい、これらの効果を実証すること。これが最終到達地点です」と内山社長。

アイディアは尽きず、今回受賞したプロジェクトは通過点に過ぎないのだとか。一層大きなビジョンを実現するため、強固なタッグで邁進し続けます。
勝太郎さん「構想はすでにあり、数年後にはまた別の企画で『インフラメンテナンス大賞』に再挑戦する予定です。次は最高賞である『内閣総理大臣賞』の獲得を目指します」
内山社長「サーフィンの聖地としてだけでなく、“デジタル技術を活用した先進的な街”として、日向市の魅力向上にさらに貢献していきたい。ぜひ今後も期待していてください」

日向市を舞台にしたお二人の挑戦が、近い将来、インフラ界隈に革新をもたらすかもしれません。

山田

【この記事を書いた人】

  • 所属:県土整備部管理課
  • 名前:山田
  • 一言:アイドルのコンサートが生きがい。
    土木の魅力をはじめ、たくさんの情報を皆様にお伝えしていきます!